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アプリnovelnove交流による企画。

三題お題小説 すくなさん

決戦! レモン城VSクジラ号

魔法使いと怪盗
 あたしのなまえはCT! 魔法使いだよっ。おししょうさまの大事な本を探して旅をしているんだ。空中要塞「クジラパフェ全部盛り号」に本があるって情報を聞いて忍び込んだの。そこで怪盗たこやきと出会って二人で罠をクリアしていったんだけど、不思議な落とし穴にかかっちゃった! 気が付くとそこは……日本のお城~!!?

 


「もー! なんなの? 千切りギロチンに塩酸温泉に異次元ホール? あのクジラ、絶対師匠の本悪用してるでしょ!」

 少女は真っ白なローブについた砂を払って周りを確認した。

 目の前にはレモン色の天守が堂々と座っている。立派な破風、左右対称な平山城は青空を背負い、周囲は堀や石垣で守られていた。安全保護魔法具が働いて無事着地したものの、静かすぎだ。後ろを振り返っても、重厚な門扉で閉ざされている。

――これは、この城は、罠だ。

 「どんな技巧が凝らされているか、見てやろーじゃない!」

 この白衣の少女、CTはメカニカルとマジカルが大好きである。勢いよくレモン城に向かうことにした。石垣に挟まれた坂道は曲がりくねり、仕組まれたトラップの数々がCTの体力をじわじわと削――らなかった。彼女はドローンに乗って、軽々と天守近くの空に浮かんでいたのである。

 「このまま最上階につっこんじゃお!」

 魔法のゴーグルをかけたことによって罠はすべて見通され、保護AIが回避を補助してくれる。はためく白いローブは青い空に干された一枚の反物のようだった。

 と、その時、シャチホコと目が合った。シャチホコとは伝説の魚で、二体で一つの火除けのまじないとして城に備え付けられたものだ。

 あ、とシャチホコの口が開き、奥から青白い光が灯る。ドローンは急旋回! そしてジグザグ! 追ってシャチホコ光線! 逃げるCT! 光線! 光線!

 スケボーみたいに立ってドローンに乗っていたCTはしゃがんでぴったりくっついてせわしなく飛び回る。レモン城のそこらじゅうが焼けこげ、一部が崩れはじめる。反対のシャチホコも光線を出してくる!

 「そう来るのね! ならあたしはっ! てんちゅー!」人差し指をビシィと突き立てCTの反撃がはじまった。

 


 レモン城天守内、制御室のモニターは緊急事態を示す赤で彩られ、警告音が鳴り響く。あわただしく対応する警備員たち。画面にはドローンに乗った少女。バチチ、と小さな雷とともに電柱が床に突き刺さった。制御室に次々生えてくる電柱。

 「で、殿中でござる! 電柱でござる!」

 「電柱で天誅だし!」電光石火のごとく警備員たちをやっつけるCT。

 ところがそのとき! 背後からバールのようなものが振り下ろされ、CTはゴーグルの透視もAIの補助も間に合わず、気を失ってしまった……。

 


一方その頃、空中要塞クジラパフェ全部盛り号。

船長・須部手ルビーはレモン城から連絡を受け、「そう、わかりましたわ。ええ、まだ船内に一匹ネズミがいますの? はやく対処なさい」と返事をした。

警備体制を強化いたしております」じいやが答えるも、ゆめかわな装いに包まれたルビーは機嫌を損なたままである。

 「アフタヌーンにタピオカミルクティーはいかがです、お嬢様」

 「……いただきますわ」

 


 怪盗たこやきが盗むものは大半の人には興味もないがらくたである。例えばどこにでもある香水の蓋、例えば古本屋によくある少年漫画の一冊、最終回を迎えたばかりのアニメのキャラクター玩具。その行いがどこかの誰か、たった数人の心を救いこともあるかもしれない。けれどわざわざ予告状を出すものだからマスコミやらヤジウマやらが面白がって飯のタネにするのだった。

 今回はクジラ号船長のプリクラ。すでに入手済みである。あとは脱出するだけ……なのだが。

「この怪盗たこやき様にまかしときぃ!」キッチンにやってきたじいやがバリバリィ! と顔面をはがし! 正体を現したのだ!

 エセ関西弁で目立つ紅のハットに、つまようじにしか見えないステッキという奇抜な姿の怪盗たこやき。彼はそこらじゅうでタコ焼き型爆弾を爆発させるわ、かつお節の粉をまき散らすわ、大暴れ。タコ焼きをひっくり返すような手際のよさで船内の警備員は倒されてしまった。

 


 「まったく映えませんわね」

 スマホでカシャカシャ連続撮影しながら、ルビーが現れた。

 「おー、ええとこに来おった。さてこれは何でしょうか、お嬢様」怪盗は胸元からぴらりと紙を見せる。

 「返せ!」

 「ええで。……ただしあの白い魔法使いと交換や!」

 怪盗たこやきは言い終わらないうちに罠の一つ、異次元ホールを起動させ、ルビーとともに落っこちていった。

 


 レモン城の深部で扇を開いたり閉じたりしている音が規則正しく続いている。音をたてているのは城主・須部手ダイア、ルビーの姉である。銀の着物を羽織り、魔法使いCTと対峙していた。

 「師匠の本を、返して」魔法も機械も使えなくなったCTはただの無力で小さな女の子だ。

 「我は有意義に使っておるではないか。あれがあれば富も不老不死もすべて思うままよ」

ダイアの顔はまるで西洋人形のように整っていて、頭の上から足の先にいたるまで“完璧”である。

 「全部を手に入れても、なんだかあなたは寂しく見えるんだけど」「口を慎め小娘がッ!」

 CTの言葉にダイアは激昂し扇を強く握りしめる。

 


 「あーあー、そない怒ってもうたら、キッレーなお顔がだいなしでっせ~?」

 怪盗がタコ焼き片手に堂々とやってきたのだ。もちろんルビーが手回ししてくれたおかげである。

 「ルビー!? なぜここに!」ダイアはルビーに近寄るが、ルビーはそこで一歩下がった。

 「あは、冗談きついですわ。これが私の姉様? 盛りすぎにもほどがありましてよ」

ゆめかわなクジラ号船長はスマホカメラを起動させるも、シャッターを切らない。レモン城城主は口元が歪み真珠のような美しい歯をきしませる。

 ビリビリと緊張した空気が漂うが、気にせず怪盗たこやきは白い魔法使いを青のりファサーのごとく助け出したりしていた。

 「まあまあ~、ここはタコ焼きでも食うて一息つかんか? ほれほれ」

 「うるさいうるさい! 我が秘宝、我の美、決して渡さぬ!」

 ダイアは扇を開き差し出されたタコ焼きを叩き落とした。そして振り上げると強風が吹き荒れ始める。同時にレモン城の造形が組み変わっていく。扇には魔法陣が仕込まれていたのだ!

 「食べモン粗末にするのはあかんでぇ!」怪盗はルビーとCTを守るように立ち、ステッキをくるくる回して風を打ち消すが、扇の風は強くなるばかり。

 「先に城の外、出とき。危ないでぇ」ステッキはミシミシと音をたて、怪盗の体のいたるところへかまいたちのような切り傷ができている。

 「何言ってるんですか! あたしも一緒に……」白の魔法使いが言い終わらないうちに、怪盗は脱出おみやげセットを彼女と船長に使う。と同時にまばゆい光が部屋を照らす。光の収束、そして大爆発。びくともしない城主。美貌のかけらも失わず、焼けこげのなかに一人残されたのだった。

 


 脱出おみやげセットは小さなロケットみたいなもので、ルビーとCT二人はクジラパフェ全部盛り号に戻っていた。

 「ダイアおねぇちゃん……」

 ルビーの手にはボロボロの古いプリクラ。そこには二人の少女が仲良く楽しそうな笑顔で写っている。今の姉妹とはまるで別人のようだが、ダイアとルビーだった。

 「あたしは助けるよ。あなたたちも、怪盗さんも」

魔力も機械の補助もまだまだ回復にはいたらない。けれどCTはそう断言した。

 「お嬢様、ご無事でしたか!」

 駆け寄ってきたじいやはレモン城が変形合体し人型戦闘用ロボットになりこちらに向かっていることを知らせた。

 「一緒に操舵室に行こう。まだ間に合うよ!」

 


 元レモン城は魔術が暴走し人型戦闘用ロボ・レモンサングリアとなってしまった。怒りの感情に飲まれたダイアは止まらない。目の前に巨大な空中要塞クジラパフェ全部盛りおかわり追加号が現れても、光る剣で切りかかる。だが魔法使いCTによりクジラ号は改造されたのでびくともしない。レモンサングリアのミサイルもクジラ号は相殺、そのままクジラ号は人型ロボを口にくわえ、高度を急激に落としていく。

 「「いっけ―――!」」船長と魔法使いが手を重ね、舵をさらに地上にとむける。

 成層圏に入り、燃え上がる二体のメカ。落下地は広い砂漠だ。崩れて、一瞬の流れ星となるメカのかけら。

 


砂漠に降り立ったとき、あっけなく、ダイアの怒りは抜け落ちていた。手には魔法の本がある。無傷なのはそれのせいだ。CTとルビーもまた、無事なのは言うまでもない。だがルビーの持っているそれは、幼き日に撮ったプリクラである。

「クジラ号とレモン城、一冊の本を真っ二つに分けるってどーいうことなの……」CTはあきれながらも、クジラ号のものは返してもらっていた。

「ごめんなさい、ルビー。それに魔法使いさん」

ダイアは本をCTに渡し、ルビーから差し出されたプリクラを受け取った。

「今度パンケーキ食べに行こ。ダイアおねぇちゃん」

二人の笑顔は最高に美しかった。魔法で作られたダイアの美貌は失われたというのに。

 

 

 「ちょい待ちぃ! そこはタコ焼きちゃうんかい!!この怪盗たこやき様を忘れたとは言わせんでぇ!」