noveで企画

アプリnovelnove交流による企画。

「波」グループ

「波」グループ

 

 以下の文章と作者とを対応させて回答して下さい。

 

 

・回答例

「波:A-1,B-2,C-3,D-4・・・」

 

 

【参加者】

 

misato ユカリゴハン すくな inori 5ろくむし haya のんのん aoto yukari

 

 

【課題文】 

 

 A

写真を撮ろうと彼女は言った。

家計簿をつけるための老眼鏡を机に置き、不意にぽつりとそう言ったのだ。

おばあちゃんになって死んだのに、遺影が若い娘だったら笑われちゃうじゃない?と彼女は、連れ添うことが決まったその日から変わらぬ無垢な瞳を、皺に埋めて微笑んだ。

お前一人でいいだろう?と僕は新聞に目を落とした振りをした。
あなただけ、昔の美青年っぷりを葬式の席で自慢するつもり?と彼女は引き下がらない。

 

 

B

写真を撮ろうと彼女は言った。

取り出したのは、スマホではなくデジカメだった。
それが驚くほど綺麗にデコられていたものだから、本当は写真を撮ることではなく、カメラを見せびらかすのが目的なのかな? と思った。
既にその時点で彼女の策に嵌っていたことになるのだけど、気づくのはずうっと後のことだ。
あの頃の私は、呆れるくらいに無邪気で無垢だったから。
そんな笑顔の写真を彼女が残してくれたことには、感謝しなければならないのかもしれない。

 

 

C

写真を撮ろうと彼女は言った。

収まりきるのか。

「何が?」
写真の魅力の事だよ。
「言われるまでもない」
でも、撮り続けてきた彼女にしては珍しく長い時間が経っていた。
「撮る瞬間に全てを表現したいからね」
その姿勢を笑うでもなく褒めるでもなく、只々待っていた。
そして、唐突にシャッターは切られた。
彼女は何も言わない。
フィルムに収まってしまったらもう、目の前の風景は何も語らない。
それでも相変わらず、美しくあり続けていた。

 

 

D

写真を撮ろうと彼女は言った。

「この瞬間を切り取って、ずっと持っていたいから──」

そして彼女は旅立った。別れを切り出したのは僕の方。夢を追う彼女の邪魔をしたくなかった。

あの時二人で撮った写真は、十年経った今も財布の中にある。

「その財布、汚いわね」
「もう十年以上使ってるから」
「ちょっと見せて」

愚かにも僕は、嫉妬深い妻に財布を渡してしまった。写真の事なんてすっかり忘れていたのだ。

 

 

E

写真を撮ろうと彼女は言った。
珍しいこともあるものだ。彼女はカメラを向けると顔を隠してしまうから、僕は写真を撮らなかったのだけど。
だから、僕は君と一緒なら写ってもいいって答えたんだ。
夜景を背に、二人で並ぶ。彼女の片手は僕が握る。
お願い、顔を隠さないで。
その一瞬が切り取られた写真を、彼女はタイムカプセルに詰めたそうだ。僕がそれを初めて見られるのは、10年後になるらしい。

 

 

F

写真を撮ろうと彼女は言った。

窓から見える奇怪な動物。欠伸をするように目を細め、にゃあ、と高い声で鳴いた。
猫のように見えて、純粋な猫ではない。背には掌の形をした灰色の翼が生えている。
私は鞄の中からスマホを取り出した。慌てていて、ロック解除のパスワード入力に失敗した。

「早く!」

急いた彼女の大声にざわつく木の葉。しまった、と気づいた時には遅かった。すでに奴の姿は消えている。逃げ足の速さだけは変わらないらしい。

 

 

G

写真を撮ろうと彼女は言った。
無駄なのに何故と僕は言った。

だって今日は地球滅亡日だから。もうすぐ隕石が衝突して、ここは死の星になる。そんな時に写真なんて馬鹿じゃないか。

それでもと彼女は言った。
存在してて無くなるのと、最初から存在してなかったのは違うじゃない。だから。
それを聞いてこれが彼女なりの愛情表現なんだと気付いた。なら仕方ない。ここは僕が譲って言うよ。

ずっと君が好きだったんだ。

 

 

H

写真を撮ろうと彼女は言った。
彼女はその手で僕を引き寄せ、その手に持った画面に僕を映した。
これでもかと真っ赤に染まった景色に僕と彼女がいる。
彼女は少し汚れてしまった顔なんか気にせずにっこりと笑っている。
表情一つ変えない僕に彼女は言った。
「もー、今日くらい笑ってくれたっていいじゃない?」
だって…と彼女が小さく言った。
「やっと前に進めるんだから」
カメラのシャッター音が静寂を切り裂いた。

 

 

I

写真を撮ろうと彼女は言った。

潮風が肌をべたつかせる中、僕の隣でセルカ棒が引き伸ばされる音がした。
彼女に手を引かれ連れてこられた展望台で、僕は所在なく空を見上げる。彼女の頬が僕の頬に近づき、数ミリの距離の間で体温が対流する。遠い潮騒をシャッター音が区切っていく。

「うん、背景の海は青く透き通ってるし、私も貴方もいい笑顔よ」

僕は輪郭のない世界と彼女の方向に頷いて、白杖を握り直す。
写真、それは彼女にだけ意味をなすものだ。