noveで企画

アプリnovelnove交流による企画。

「呂」グループ

「呂」グループ

 

以下の文章と作者とを対応させて回答して下さい。

 

 

【参加者】

 

ひゆき 竹原ヒロ うみのみおり ミズイロ dangerous 古都の三日月 lalalacco nanome まーの 

 

 

・回答例

「呂:A-1,B-2,C-3,D-4・・・」

 

 

 【課題文】

 

写真を撮ろうと彼女は言った。

ああ、やっぱり。だからこの景色を彼女に見せたくなかった、見せたくなかったのに。
僕の逡巡を見抜いたのか、彼女はもう一度「写真を撮ろう」と言った。強い意志のこもった言葉だった。
彼女にとっての写真は普通の人にとってのそれとは全然価値が違う。被写体に対する「力」が存在するのだ。傷つけ、奪い、失わせる、ともすれば暴力にもなりかねない力が。
だからこそ僕も彼女も理解していた。
もう、決着の時は近い。

 


写真を撮ろうと彼女は言った。
今までずっと嫌がっていたのに、どうして。
尋ねる俺の声を遮るように、早くと俺を急かす彼女。
カシャ
それが最後のシャッター音。

次の日、彼女は忽然と姿を消した。
わかっていた。あれが俺達の別れを意味していたことも。彼女が写真を拒んでいた理由も。写真に写ろうとした彼女の心の内も。
ポストに封筒。昨日の写真が入っていた。

──写真の中、俺の隣には誰もいない。

 

 

写真を撮ろうと彼女は言った。
珍しい。彼女は普段、写真は嫌いだと言っていたはずだ。
「別にいいじゃない、気まぐれよ」
彼女はカメラのタイマーをセットし、それを机に置いて、僕の横に座る。
彼女が、僕の老い枯れた手をそっと握る。
優しく老いた彼女の手は暖かくて心地よい。

ベットに座る彼女は泣きながら笑ってる。
ベットに座る僕の命はあと少し。

「…1足す1は?」
「いつまでも、2」

シャッター音。

 

 

 D

写真を撮ろうと彼女は言った。
「やめよ。心霊写真撮れちゃうかもよ?」
「それがいいんじゃない。はい、肝試し記念」
楽しそうにカメラを起動する彼女の横で、怖気付く私。フラッシュが焚かれ、それによって背景の廃工場が不気味さを増す。
「キャハッ。みて、あんた怖い顔してるよ」
場違いなまでに彼女は、はしゃいだ。中に入ってからも、この調子だった。

「何も出なかったね」
つまらなそうに、彼女は携帯をいじる。しかし、急に指が止まった。
「…え?」

さっきの写真の窓という窓に人が写っていた。

 

 

 E

写真を撮ろうと彼女は言った。

そして僕の返事も待たずに化粧を始めた。ファンデーション、アイライン、チーク、リップ。久し振りとはいえ、手際がいい。化粧を終えた彼女は、どきりとするほど華やいで見えた。

桜はもう散っていたので、彼女は花壇の前を選んだ。黄色いマリーゴールドが陽だまりのように咲いている。
花に囲まれて笑う彼女にカメラを向ける。今時珍しい銀塩カメラ。彼女の姿を永遠に焼き付けておくため、僕は震える指でシャッターを切った。

 

 

写真を撮ろうと彼女は言った。
なぜ、と問えば白い指先が年季の入ったポラロイドカメラに伸びる。

かしゃり。

乾いた音と懐かしい機械音。浮かび上がるのはくすんだ青い水に浮かぶ、いくつもの人形たちだ。たゆたう水の中に揺らめく少女を模した人形の長い黒髪がひどく美しく、見開かれた蒼い瞳はどこか恍惚とした絶望を湛えていた。

セピア色の世界に、閉じ込めてしまうの。

彼女はそう云って現像したばかりの写真を放った。

 

 

写真を撮ろうと彼女は言った。

普段滅多に撮らないのに珍しいこともあるものだ。快く了承してスマートフォンを横にして置く。
「もっと寄って」
頬を染める彼女の肩を強引に引き寄せた。ふわりとシャンプーの香りがした。
「友達がね、彼氏との写真を待ち受けにしてたの」
だから自分もしてみたくなったのか。にやけそうになる顔を必死で抑える。
「いいんじゃない? 君は僕の彼女なんだし」
俯いた彼女は嬉しそうに頷いた。

 

写真を撮ろうと彼女は言った。
そうして撮った一枚は、どうしてもアルバムに収める気になれず、手帳に挟んだままになっている。
ひきつった作り笑いで写る僕。僕以外の誰が見ても僕だけが写っている写真だ。
けれど僕には見える。
僕の隣で晴れやかに微笑んで写る彼女の姿が。
ビロードのような黒髪を揺らして闇に溶けていった彼女が、無事帰りつけていればそれでいい。
彼女が最後に残した一枚きりの写真を撫ぜ、僕は手帳を閉じた。

 

 

写真を撮ろうと彼女は言った。
僕は内心で、またか、と溜息をついた。

「また、お爺様の初版本を差し上げますから」

そう言われてはしぶしぶ頷かざるを得ない。
パシャリ、とシャッターが切られる。

「……やっぱり写らないのね」

伊佐坂さんはぷう、とつまらなそうに頬を膨らませた。
それはそうだろう。

ーー未練は機械では見えまい。

初版本は仏前にでも供えて貰おう。
なにせ、秋の夜は長いのだ。