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アプリnovelnove交流による企画。

プロットN

プロットN

【人物】

 

・主人公 = ツカサ(ぼく)

・転校生 = ハツカ

 

【舞台】

 

学校

 

【ストーリー】

 

■最初

ハツカ。不思議な話し方をするやつ。同じ中学二年生のくせに、~です、とか、~だと思います、とか作文みたいな口調。 ハツカ。いつもぼくについてきた。鬱陶しいけれど、ハツカはぼく以外とは誰とも話さないので、結果二人でつるむようになる。 あるとき、転校したきた理由を尋ねたが、教えてくれなかった。

「いずれ言うべき時が来ます」

 

■教室

「ツカサ、この問題を解け」

ぼくの代わりにハツカが完璧に解いた。

「ハツカは頭がいいね」

「そんなことはありませんよ。ツカサにも素敵なところはあります。ただその良さをうまく理解できていないのです」

 

■職員室

「ハツカ君をツカサから遠ざけるべきです!」

室内に響くほどの大声で、二三人の生徒が訴える。

「先生も知っていますよね! ツカサは問題児なんですよ。もしもまたあんなことが起きたら、ハツカ君は学校に来なくなるかもしれません。だから!」

「先生たちは子どもたちを束縛してしまうようなことはしてはならないの」

 

■後日

飼育小屋のウサギがすべて惨殺された。犯人は不明。学校中が大騒ぎ。

「ハツカの学校では、こういうことってあった?」

「いいえ」

「この学校では、数ヶ月に一度、怪奇現象が起きるんだ。ぼくが入学してから、すでに4回か5回くらい。もうみんな驚かなくなってしまった」

「その七不思議などは解決されているのですか」

ツカサは首を横に振った。

「一部の連中はどうやらぼくを犯人だと決めつけているみたい」

「それはなぜですか」

「ぼくが問題児だから」

「何かがあったのですね」

 

■職員室

「子どもの想像力が現実化をする?」

「教師の間だけでほそぼそと囁かれていることなのですがね」

青春の真っ只中にいる子どもたち──とりわけ感受性の強い子どもたちの想像力が、時に予想もしない形で現れてしまうということ。ありあまるエネルギーが現 実空間そのものに影響を及ぼしている、という仮説。

「その想像力がそのまま形になるわけではありません。宇宙船を強く思い描いたとしても、そのまんま宇宙船が産まれるのではなくて、かすんだ白いモヤのよう なものです」

そのモヤは計り知れないエネルギーの塊であり、何かに危害が加わる場合も想定される。

「学校というのは、自意識の狭間で悩みあぐねる子どもたちの内側から表出してしまった、負のエネルギーの吹きだまりの場所」

 

 

■季節外れの猛烈な台風の直撃

「ぼくらも早めに帰れば良かったんだ。これじゃ外にも出れない」

二人は誰もいない放送室にいた。建物の外はかなり激しい風が吹き荒れているよう、ガタガタと唸りを上げていた。 ハツカは顔色ひとつ変えずに、放送室の機器をいじっていた。その手には一枚のCD。

「これを使えば、新たな変革が起こるはずです」

スイッチ・ON 生徒も先生も残っていない静かな学校全体に、まるで何かを目覚めさせるような神秘的な音が響いた。同時にその曲はぼくが小さい頃、母親と一緒によく聴いて いたもの。 タイトル『今日の日はさようなら』 どうしてハツカはわざわざこんな曲を選んだのかぼくにはわからない。 曲はずいぶん長く続いていたような気がする。あるいはその間だけ、嵐がおさまったかのような、静寂すら感じた。 曲が終わるまでハツカは黙って目を閉じている。

 

■さらに後日

あの日を境に、二人はあまり話さなくなった。ハツカは教室におらず、どこにいるのかよくわからない。目撃の証言はちらほら耳にする。それは音楽室の中にい てベートーヴェンの肖像画をじっと見ていたところを見たという生徒、廊下をふらついているときに中庭にいるのを見た生徒、など。 やや気になる情報。

「午後の掃除の時間だったと思う。大きなゴミ袋を焼却炉に運びに行った。すると、焼却炉の裏側で、誰かがひそひそ話す声が聞こえたんだ。気づかれないよう に、ちょっと離れたところからその様子を見ていた。で、本当かどうかは定かじゃないんだけど、そのときそこにいたのは、ハツカと三年のモズクだったと思 う」

モズクと言えば、この学校で知らないものはいないくらいの有名人。

有名な理由は、留年したから。三年を卒業する一歩手前で、留年が確定して、彼はもう一度 三年生を繰り返している。しかし留年のショックのせいか、授業にはほとんど出ず、所在も明らかではない。けれども、誰だって彼を見たら一度で顔を覚える。 なぜなら彼は、顔に身の毛もよだつ般若の面をかぶっているから。 モズクとハツカにどんな関係性があるのか、ぼくは気になった。

 

■飼育小屋

清掃をしているおじさんが教えてくれた。ハツカがここにいると。 ハツカはまだ血のあとが残っているウサギの餌入れをぼんやりと眺めていた。

「君は最近、どこにいるんだ」

「それは詳しく教えることはできません」

「どうして教えてくれないんだよ。ぼくたちは友達じゃなかったの」

「友達だからこそ、教えてあげられないこともあることをわかってください」

「そんなの納得できないよ」

ハツカに憤りを感じる。ぼくはいつもひとりで、他人のことなんか無視をして、何を言われても気にしないで、自分を抑え続けていたのに、今のこんなふつふつ と湧き上がる感情には初めて出会った感じ。

「モズクが何かを握っているのか?」

その名前を口にした瞬間、それまで飄々としていたハツカの肩がびくっと動く。 やっぱり何かあるんだ。

 

 

■音楽室

音楽室は4階に。壁には有名な音楽家の肖像が飾ってあった。音楽室の向こう側には東校舎があって、肖像画は東校舎側に向き合うように飾られていた。 そのうちのベートーヴェンの肖像画だけが他よりやや低い位置にあって、彼の目線に違和感を覚えた。 誰かの目撃の証言に、ハツカが音楽室のベートーヴェンの肖像画を見ているというのがあった。 ベートーヴェンの目線を追いかけた。 その先に、東校舎の4階より上、一般の生徒は立ち入り禁止と言われている5階があった。 あらゆるものがそこにあるように見えた。

 

■5階の空き教室

雑然とした教室だった。いろいろなものがありすぎてわからない。しかしハツカとモズクはそこにいた。

「ツカサ。どうしてここに」

「君を探しに来たんだ」

となりの般若の面をつけた彼が、こもった声で言う。

「ハツカ、お前が呼んだのか?」

「い、いえ、違います」

ふたりはいったい、ここで何を。

「ここで何を、だと。すべてはお前のせいだ。ツカサ」

ぼくの。せい。なにが。ねえ。どういうことか説明してよ。

「お前のキモいキモいキモい想像力が、すべての元凶なんだ。他人に対する劣等感や嫉妬、自己承認欲求の強さ、人は誰もお前なんか見ていない、自意識過剰、 過剰、過剰、キモいキモい、お前の存在が一番キモい」 何がなんだかわからない。

「感受性が産み出す想像の負のエネルギーだと。ふざけるな。そんなもののために、俺はわざわざ組織の連中からこのクソな学校に残らされて、挙句こんな誰も 立ち寄らない場所で、この学校をてめえの腐れた負のエネルギーから守るためだけに、ただ頑張って、ただ戦って、誰にも救われない! こんなことが! こん なことが!」

モズクがツカサに掴みかかる。般若の顔が迫る。その恐怖にツカサの負のエネルギーが反応する。モズクが吹き飛ばされ、窓ガラスを突き破り、地上に落下し た。モズク死ぬ。

「ハツカ。なんだよこれ。なにが起きているんだよ。モズクの言っていたことはほんとうなの? 負のエネルギーってなんなのさ」

 

■ハツカ

端的に言うと、ツカサの内側に蓄積した負のエネルギーは誰の手にも負えない状態で、モズクという特別な存在の特殊な力で抑え込んでいたが、限界が近かっ た。そこで組織から送られてきたのがハツカだった。ツカサの負のエネルギーを抑圧するために、ハツカの存在があったが、根本的な解決にならなかった。

「この前のウサギ惨殺事件も、君の想像力のせいです。季節はずれの台風も。そして、君が入学してから起こったいくつかの怪奇事件もすべてです」

しかし途中からわかったことがありました。それはこのままモズクに頼って現状維持を続けることは難しいと。そこで、私はあの曲を流しました。『今日の日は さようなら』。あれは不思議な力があり、学校に問うことを可能にする。私たちがすべきことはなんなのか。変革とはすなわちそういうことです。そして学校が 出した答えは。 「ツカサをこの世から消してしまうこと」 ですが、問題は多くありました。直接手にかけようとすれば、ツカサの負のエネルギーによって返り討ちにされるということ。先ほどのモズクがいい例。そうな らずにどうにかツカサを抹消する方法を考えました。最善の策は、モズクがツカサの負のエネルギーを封じ込めている間に私がツカサを殺すという算段。しか し、鍵となるモズクが死んでしまった今、これは叶わなくなる。

「もう私にはどうにもできません。今までたくさん迷惑をかけましたね。さようなら」

ハツカはモズクが突き抜けた窓ガラスから飛び降りる。

 

■結び

長い夢を見ていたような気がする。ぼくは保健室のベッドに横たわっていた。隣のベッドを見ると、そこはすでに空っぽで、布団がめくれていたけれど、誰だか 親しい友人が寝ていたような気がした。 教室に戻る。教室にぼくの居場所はない。休み時間、みんなはスマホを片手にお互いのことを見ないで話をしている。誰かが誰かを避けていて、誰かが誰かを恨 んでいる空間。すごく陰気で、全然楽しくない。 ぼくの隣の席は、いつも空席だ。不登校か何からしい。その人にはその人なりに学校に行きたくない理由があるのかもしれない。ぼくも同じだ。

けれども、もし も彼が学校に来て、似たような境遇の相手がそばにいたら、少しは変わるかもしれない。いい方向に進むかもしれない。 ぼくたちはとっても若くて、独りよがりのくせに、誰かが近くにいないと不安になってしまう。 ぼくだって友だちなんかいなくていい、ってよく思うけど、いてくれるとそれだけで楽になれるときもある。と思う。 だからもし、いつの日かこの空席に人が座ったら、その人に頑張って話しかけてみようと思う。それで二人でいろいろなことをするんだ。 二人だけで学校に残ったり、飼育小屋のウサギの餌を変えたり、生徒は入っちゃいけないと言われる東校舎の5階の空き教室に潜入したり……。

「じゃあこんなのはどうだろう。ひとりの少年がいて、不思議な転校生と一緒におかしな青春を過ごす、そんなふうな物語、なんてね」 午後。眠たい数学の授業を受けながら、ぼくはそんなことをぼんやりと考えていた。 ──そして今日も一日がゆっくりと過ぎていく。